春の夜とマフラー
駄文失礼します。初投稿です。にいとPの「恥ずかしいほどのラブソングを君に」を聞きながら書きました。ひな祭りに間に合わなくて申し訳ないです。あとゆかマキください。
今日は3月3日。いわゆるひな祭りというやつだ。私、弦巻マキも友人たちと集まり桃の節句を祝っていた。
茜ちゃんが、
「これだから関東モンは、雛人形の並べ方が違うで?本場はこう並べるんや!どや?」
なんてことを言って、葵ちゃんを困らせていたり。
ずんちゃんが、
「ひな祭りに雛あられを食べなきゃいけないというのは、固定観念だと、私思うんです。だから、今日はずんだ餅を沢山作ってきました!時代はずんだ餅ですよ!」
と、到底食べ切れないような量のずんだ餅を広げたり。
そんないつもと変わらない光景を、ゆかりちゃんは微笑みながら見つめていて、私はそんなゆかりちゃんを、ただぼんやりと見つめていたのだった。
決してひな祭りが楽しくないわけじゃないけれど、今日の私は何だかブルーな気分で、何にも手がつかない。
原因はわかってるけれど、それはどうしようもないことで行き場の無いもやもやとした感情が、私の中をぐるぐると回っていた。
「……さん?マキさん?」
ゆかりちゃんの声でハッとする。どうやら私はぼんやりとしていたらしい。
「大丈夫ですか?マキさん。熱でもあるんでしょうか……」
ゆかりちゃんの心配そうな声が胸に刺さる。ゆかりちゃんを心配させる訳にはいかない。ゆかりちゃんにはいつも笑ってて欲しい。だから私は、無理矢理にでも笑った。
「なんでもないよ。ゆかりん、少しボンヤリしてただけ!」
それを聞いたゆかりちゃんは、
「なら良かったんです。マキさんのことだから、どうせ今日の晩御飯のことでも考えていたんでしょう。食いしん坊さんなんですから♪」
なんて言いながら、にっこりと可愛らしく笑う。
「わ、私そんなに食い意地はってるキャラじゃないよ!?」
「うふふ。私にはマキさんの考えてることなんて、全部お見通しですよ♪」
笑ってるゆかりちゃんを見ていると、何だか悩んでたことが馬鹿馬鹿しく感じられて、自然と笑みが溢れる。
「ゆかりさんとマキさんはそんなところでイチゃついてないで、この大量のずんだ餅をなんとかするの手伝ってください……」
「い、イチゃついてなんかないよ!!!!」
「あら、私はイチゃついてるつもりだったんですが、マキさんは違ったのですか……」
「もうそんなことは良いから早く助けてくれへんか!このままだと茜ちゃんお餅さんに殺されそうや!!」
そんなこんなで、最初に悩んでたことが馬鹿らしくなるくらいに楽しい時間は、あっという間に過ぎて行った。
遊び呆けて、すっかり暗くなった帰り道。ずんちゃん達と別れて、ゆかりちゃんと私は二人きり。3月とは言っても、まだまだ冬の寒さは健在で、夜風が肌にしみる。
「くしゅん」
「ほら、やっぱりマキさん風邪なんじゃないですか?」
「いやあ、もう春だと思って薄着で来ちゃってね。あはは」
「もう、マキさんったら。私のマフラー貸しましょうか?」
「いや、それは良くないよ。ゆかりんだって寒いだろうし」
「ん……じゃあ、一緒に巻きましょう♪これなら私も大丈夫ですよ!」
その言葉を聞いて、私の心臓が早鐘を打つ。
「ま、マフラーを一緒に巻くなんて、カ……カップルみたいじゃん!ダメだよ!!!」
「マキさんは、私とマフラーを巻くの嫌なんですか……」
言ってから、しまったと思った。ゆかりちゃんのしゅんとした声。
「い、嫌じゃないけどさ……恥ずかしいって言うか。なんと言うか……」
「じゃあ問題無いですね、一緒に巻きましょう♪ぎゅーっ」
「ゆ、ゆかりん!ち、近いよ!!!」
ゆかりちゃんの肩が、私の肩にコツンと当たる。髪の毛と髪の毛が触れ合いなんだかこそばゆい。ラベンダーのような石鹸のような、そんな心地の良い香りが鼻孔を擽った。
「ん……よし、綺麗に巻けましたね。長いマフラーを持ってきて正解でした」
「ゆかりん、くすぐったいよ!」
ゆかりちゃんが耳元で囁くから、私の心臓は今にも破裂しそうで。
「……」
「……」
なんだか急に恥ずかしくなって、言葉が出てこない。沈黙が続く。
「私、知ってますよ」
長い沈黙の後、歩道橋の上。ゆかりちゃんは急に立ち止まって、絞り出すようにか細い声でそう言った。
「私、知ってます。何で今日のマキさんがどこかぼんやりしていたのか」
「えっ……」
「卒業。ですよね」
「なんで……」
「言いましたよね。マキさんが考えてることなんて全部お見通しなんです。それに、私も同じことで悩んでましたから。マキさんは、自分だけが悩んでるとでも思っていたんですか?」
ゆかりちゃんは、今にも泣き出しそうな声で続けた。
「私だって、私だってマキさんと離れ離れになるのは辛いんですよ?マキさんのことが大好きなんですよ?」
「ゆかりん……私……」
「……ごめんなさい」
ゆかりちゃんは、そう言い残して走り去っていった。残された長いマフラーが所在なさげに揺れている。私はただ呆然と立ち尽した。
ゆかりちゃんは、泣いていた。
私には、それがなんとなくわかった。ゆかりちゃんは強い女の子だ。私たちには弱いところを見せようとしない。
「追いかけなくちゃ」
私は、ゆかりちゃんを探して走り出した。
それからどれだけの時間が経ったのだろう。私は公園のブランコにちょこんと座って俯いているゆかりちゃんを見つけ、声をかける。
「やっぱりここに居たんだね。ゆかりん」
「マキさん……どうしてここが……」
「だって、ここは私達が出会った場所だもの」
そう。ゆかりちゃんが居たこの公園は、私達が初めて出会った場所。
「覚えてる?私達が出会った日のこと」
「そんなの……忘れるはずないじゃないですか」
「あの日のゆかりちゃんも、このブランコに座って泣いていたよね」
初めてあった日のことを思い出す。放課後に何となく立ち寄った公園、そこのブランコでゆかりちゃんは泣いていた。
俯いて泣くゆかりちゃんの足元に横たわっていたのは、黒猫の轢死体。
側には空になった餌皿が転がっている。誰が見ても、彼女がこの猫を可愛がっていたであろうことは明らかだった。
どうしても泣いている彼女を放っておくことが出来ず、そうして私は泣いている彼女に声をかけたのだ。「大丈夫?」と
「本当に、懐かしいですね……」
「私ね、あの時泣いているゆかりんを見て思ったんだよ。笑っているこの子が見たいなって。この子を泣かせたくないなって」
私は続ける。
「ゆかりんが言ってたことは当たってる。今日私がずっとぼんやりしていた理由」
「卒業するのが嫌だった。ゆかりちゃんと離れ離れになりたくないって。なんで卒業なんてしちゃうんだろうなあって。ずっとこんな毎日が続けば良いのになあって」
「でもね、ゆかりちゃんが笑っているのを見て、そんな悩みは消し飛んだんだよ?ゆかりんが笑っていて、ずんちゃんや茜ちゃん葵ちゃんがいつもみたいにお馬鹿なことをしているのを見ていたら、悩んでいる自分が恥ずかしくなっちゃったんだ」
「マキさん……」
「ゆかりんと離れ離れになるのは確かに寂しい。でも二度と出会えなくなるわけじゃない」
「私は笑っているゆかりんが好き。だから、ゆかりんには笑ってて欲しいんだ」
長い沈黙の後。ゆかりちゃんは俯いていた顔を上げて、微笑んだ。
「マキさん、ありがとうございました。そして、ごめんなさい……」
「ううん、謝らないで」
「卒業したって、私たちはずっと友達ですよね?」
「うん。私たちはずっと一緒だよ」
「なんだか、とても恥ずかしいですね」
ゆかりちゃんは、はにかみながら立ち上がった。
「そうだ、マキさん。マフラーを返してもらえませんか?」
「うーんどうしよっかなー?」
「なんでこんな長いマフラーをゆかりちゃんが持っていたのか考えてたんだ。ゆかりちゃんの口から答えが聞きたいな〜?」
私はニヤニヤと笑いながらゆかりちゃんに尋ねた。
「そ、それは……マキさんと恋人巻きをするために、わざわざ長いマフラーを編んだなんて、言えるわけないじゃないですか!……あっ」
「ゆかり〜〜〜ん♡」
うっかりと口を滑らしたゆかりちゃん。その愛らしさに耐えられず、私はゆかりちゃんに抱きついた。ゆかりちゃんの華奢な身体はとても暖かかった。
「ままままま!マキさん!!!!いきなりなんてことを!!!!!」
「さっきのお返しだよ〜!私だって、いきなりゆかりんに密着されて凄く恥ずかしかったんだから!!!」
暫くじゃれ合って疲れ果てた私たちは、公園の芝生に手を繋いで寝転び、星を見上げた。
「綺麗ですね……」
「うん……」
春の星空は、私達の今後を祝福するようにキラキラと輝いていた。
私だって、いつまでもこんな時間が続けば良いと思う。でも、私達は進まなきゃいけないんだ。
「マキさん」
「ん?」
「ふふ、やっぱりなんでもないです♪」
おしまい