ハッピーバースデイ
#ずん誕2015 にあわせて、「東北ずん子の誕生日」というテーマで書き始めたのですが……どうしてこうなった。
とくにイタコ姉さんは損な役回りになってしまいました。ファンの方には本当に申し訳ない。
とくにイタコ姉さんは損な役回りになってしまいました。ファンの方には本当に申し訳ない。
ことの起こりは、ずんねえさまのお誕生日を一週間後にひかえたある日のことでした。
その日、わたしはずんねえさまへのお誕生日プレゼントについて考えていました。大好きなずんねえさまへのプレゼントは、なにがいいでしょう?
「やっぱり手作りのアクセサリーとかいいのかな。でも手作りはめんどいし……」
思えば、去年の今頃も同じようなことで悩んでいたような気がします。手作りにするかお店で買うかさんざん迷ったあげく、迷ったあげく……
「あれ、結局どっちにしたんだっけ?」
「変ですね。ずんねえさまに何をプレゼントしたのか思い出せません」
たしか、去年、つまりずんねえさまの十七歳のお誕生日は、わたしとずんねえさま、タコねえさまの三人でお誕生日パーティを開いたはずです。
しかし、パーティの記憶そのものがとてもあやふやで、細かい部分がきちんと思い出せないのです。大きなケーキがあったのと、すごく楽しかったということだけはおぼろげながら覚えているのですが。
「ずんねえさまとの大切な思い出の記憶が消されている……これはまさか組織の陰謀っ!?」
なーんて。わたしは肩をすくめます。最近再放送されているアニメに影響されているみたいですね。とぅっとぅるー。
「……バカなことやってるうちに時間になりました」
時計の針はとっくに午前0時を過ぎています。わたしは手元にあったリモコンでテレビのスイッチを入れました。
じつはいまちょっとハマっている深夜アニメがあって、それを観るためにこんな時間まで起きていたのです。そういえば、このアニメに出てくる緑色の和服の人、どこかずんねえさまに声が似ていますね。
じつはいまちょっとハマっている深夜アニメがあって、それを観るためにこんな時間まで起きていたのです。そういえば、このアニメに出てくる緑色の和服の人、どこかずんねえさまに声が似ていますね。
…………
次の日の朝。東北家のリビング。
朝ごはんの席で、わたしはぼんやりと考え事をしていました。
朝ごはんの席で、わたしはぼんやりと考え事をしていました。
「――たん、どうしたの? きりたん!」
「はいっ!?」
「さっきからお茶碗持ったままぼんやりしてるけど もしかして具合とか悪いの?」
顔を上げると、ずんねえさまが心配そうな表情でわたしの顔をのぞき込んでいました。
「いえ、大丈夫ですずんねえさま。ちょっと考え事をしていただけですから」
「そう?」
「どうせいつもの寝不足でございませんこと?」
と、憎まれ口を叩いたのはタコねえさま。わたしのだいせつなずんねえさまを溺愛する、不届き千万ないちばん上のねえさまです。
「大方、徹夜でゲームか深夜アニメをリアタイで観ながらツイッターで実況でもしていたんでしょう」
「……やけにお詳しいですね、タコねえさま」
「なにかおっしゃって?」
「いえべつに」
わたしはタコねえさまの視線を無視すると、枝豆入りの味噌汁をすすりました。
じつは去年のお誕生日プレゼントのことが気になって、朝まで寝つくことができなかったのです。おかげでタコねえさまの言うとおり、今日は朝から眠くて仕方がありません。
「はい、デザートのずんだ餅です!」
「またずんだ餅ですの? たまには別のデザートも……ああっ、わかりました! ずんだ餅サイコーですからずんだアローをあたしに向けないでくださいまし!!」
もちろん、ずんねえさまかタコねえさまにお尋ねしたらすぐに分かるのでしょうけど、「去年、わたしはずんねえさまに何をプレゼントしたのでしょうか?」とご本人にお尋ねするのも何か変ですし、タコねえさまなんかに頼ったら、後で借りを何倍にして返さなければいけないハメになるものやら。
やはり、自力で何とか思い出さなければいけませんね。
やはり、自力で何とか思い出さなければいけませんね。
…………
同じ日の午後。
学校から帰ってきたわたしは、ランドセルを机の上に置くとばったりとベッドの上に倒れこみました。
学校から帰ってきたわたしは、ランドセルを机の上に置くとばったりとベッドの上に倒れこみました。
「……ダメです。どうしても思い出せません」
あれから授業中も給食の時間もずーっと去年のお誕生日プレゼントのことを思い出そうと考え込んでいたのですが、しかし結果はまるでダメダメでした。
あげくの果てに授業をまじめに聞いていないと先生に怒られる始末です。
あげくの果てに授業をまじめに聞いていないと先生に怒られる始末です。
「日記なんて書いていないし、せめて写真とかあれば……写真!」
もしかしたら、去年のお誕生日パーティを写した写真の中に、ずんねえさまへのお誕生日プレゼントを写したものがあるかもしれません。
わたしはがばっと起き上がると、スマホをつかんで写真フォルダを開きました。
しかし――
「そっか、この間ずんねえさまのftmm隠し撮り写真が見つかって、ずんねえさまにフォルダごと削除されたんだっけ……」
あの時はとても悲しくて、同じくftmm写真をぜんぶ消されたタコねえさまといっしょにケーキバイキングでヤケ食いしたものです。
「ということは、タコねえさまも今はロクな写真を持っていませんよね……」
「あっ、でもずんねえさまなら写真を残しているかも!?」
その日の夕方、わたしは学校から帰宅したずんねえさまに、去年のお誕生日パーティの写真を見せてくれるようお願いしました。
「写真? いいよ、それじゃ私の部屋で一緒に見ましょ」
「お茶を用意するから」とずんねえさまに言われて先に部屋で待っていると、しばらくしてお茶とお茶うけのずんだ餅を乗せたお盆を手にしたずんねえさまが入ってきました。
「今日のずんだ餅は秋田産の湯あがり娘という枝豆でつくったんだよ。それにしても湯あがり娘って名前、ちょっとエッチな感じがするよね」
「枝豆の名前はどうでもいいですから、はやく写真を」
「もう、きりたんはせっかちです」
お茶とずんだ餅をテーブルに並べたずんねえさまは、今度は収納棚から古風なアルバムを取り出しました。わたしの隣に座り、テーブルの上でアルバムを開きます。
「この写真は、バースディケーキのろうそくをずんねえさまが吹き消しているところですね」
「うん。このずんだ色のケーキ、わざわざケーキ屋さんに特注したんだよね」
「そう……でしたっけ?」
「そうだよ。あまり無茶なリクエストはしないでくださいよってきりたん怒ってたじゃない」
「はあ」
「次の写真は、と……」
「うわっ、この写真残していたんだ!?」
「ずんねえさまがずんだ入りのチーズケーキを食べようと大口をあけている瞬間ですか。ずんねえさまのこういうところもかわいいです」
「もう、どうしてこんな恥ずかしいところを撮るかなぁきりたん!」
「これ、わたしが撮ったのですか!?」
「そうだよ、忘れたの?」
「……ごめんなさい」
「ま、許してあげるけどね。あ、これは私が撮ったきりたんの写真だね」
「ザッハトルテのせいで口のまわりがチョコだらけです。ちょっとはずかしいですね……」
「きりたんかわいいー」
「つ、次の写真にいきましょう……」
「こ、この写真は!?」
「あー、この時はイタコねえさまがフルーツタルトを食べさせようと迫ってきたのよね」
「おのれタコねえさま、ずんねえさまに「あーん」を迫るとはなんとうらやましい真似を」
「あ、あの、きりたん?」
「…………」
うーん、写真を見ると「ああ、そういえばこんなことがあったなあ」と感じるのですが、なんというか、夢の中のできごとを思い出しているようで、いまいち現実味がありません。
「それに、肝心のプレゼントを写している写真が一枚もありませんね……」
「え? なんですか?」
「いえ、ひとりごとです」
…………
わたしとずんねえさまがリビングに戻ると、仕事から帰宅していたタコねえさまが声をかけてきました。
「ちょうどよかった。ずんちゃんを探していたのですわ」
「おかえりなさい、イタコ姉さま。何か用ですか?」
「ええ、庭にある物置の鍵を探しているのですけど、どこにあるかご存じないかしら?」
「あ、はい。いま取ってきますね」
ずんねえさまはリビングを出ていきます。
「…………」
「…………」
「…………」
「随分と浮かない顔をしていますわね。どうかなさったのですか?」
「べつに、なんでもありません」
「あら、つれないお返事ですこと」
くすくすと笑い声をあげるタコねえさま。
そういえば、タコねえさまはずんねえさまにどんなお誕生日プレゼントを贈るつもりなのでしょう?
そういえば、タコねえさまはずんねえさまにどんなお誕生日プレゼントを贈るつもりなのでしょう?
「あたしのプレゼントですか? もちろん自分の身体に……」
「自分の身体にリボンを巻いて『あたしがプレゼントですわ』、とかやるつもりじゃないでしょうね?」
「うぐっ……も、もちろんジョークですわよ?」
「わたしは真面目に質問しているんです!」
カチンときたわたしは思わず大声を上げてしまいました。
タコねえさまがびっくりした顔でこちらを見ています。
タコねえさまがびっくりした顔でこちらを見ています。
「……すみません。大声を出してしまって」
「いえ、ちょっとびっくりしただけですわ――でも、本当にどうかなさったのですか?」
「なんでもありません」
「もしかして、今年のずんちゃんの誕生日プレゼントを何にするか思いつかなくて悩んでいるとか?」
「…………」
「その表情では、どうやら図星のようですわね……」
本当は違いますが、しかし元はといえばわたしがずんねえさまへのお誕生日プレゼントについて悩んでいたのがきっかけですから、まるっきり的外れというわけでもありません。
わたしが何も答えずにいると、タコねえさまは呆れたようにため息を付きました。
「いいですか、ずんちゃんはきりちゃんのことを愛していますわよ」
「あいっ……!?」
「もちろん家族として、ですわ。ですから、ずんちゃんはきりちゃんからのプレゼントならどんなものでもきっと喜んでくれますわよ」
「…………」
「だから心配することなんかございませんわ――って、どうしたのですか? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「いえ、タコねえさまがそこまで親身になってくれるとは思わなかったので」
「あたしを何だと思っているのですか……」
タコねえさまはがっくりと肩を落としました。
てっきりバカにされると思い込んでいたので、正直肩透かしを食らった気分です。
てっきりバカにされると思い込んでいたので、正直肩透かしを食らった気分です。
「きりちゃんはあたしの大切な妹ですのよ。困っていたら手を差し伸べるのは当然ですわ」
「その、すみません。タコねえさま」
「まあよろしいですわ」
「でも……そうですわね、どうしてもプレゼントが思いつかないというのでしたら、ひとつヒントを差し上げますわ」
「ヒント?」
「ええ。じつはこの間、ずんちゃんに何かほしいものがあるかそれとなく尋ねてみましたの。するとですね……」
…………
次の日。
わたしはずんねえさまへのお誕生日プレゼントを探すために通販サイトを検索していました。
探していたのは秋田産の「たつこもち」というもち米です。タコねえさまがずんねえさまへのお誕生日プレゼントに青森産の枝豆「青森毛豆」を贈るというので、わたしは同じくずんだ餅の材料であるもち米を贈ることに決めたのです。
なお、タコねえさまがプレゼントを枝豆に決めたのは、ずんねえさまに欲しいものをそれとなく尋ねたところ「ずんだ餅、あるいは枝豆」と即答されたからとのこと。
「最高級の枝豆と最高級のもち米ですから、ずんちゃんもきっと喜びますわ」
「枝豆ともち米をプレゼントされて喜ぶ女子高生というのもどうかと思いますけど」
「それについてはあたしも同感ですわ」
ただ、ブランド米のもち米はそれなりに値段が高く、わたしのおこづかいでは到底手が届きません。そのことを話すと、驚いたことにタコねえさまが資金の協力を申し出てくれたのでした。
「タコねえさまが妙に協力的なのが、なんだかかえって怪しいのですが……あ、あった!」
たつこもちの通販サイトを見つけたわたしは、さっそく購入を申し込みます。ずんねえさまにプレゼントの内容を悟られないように、商品は念のためコンビニ受け取り指定にしておきましょう。
「よし、これでオッケーです」
注文ボタンをタップしたわたしは、ふうとため息を付きました。
目の前の問題を片づけることができたので、とりあえずひと安心です。
目の前の問題を片づけることができたので、とりあえずひと安心です。
「ですが、結局去年のプレゼントは思い出せませんでしたね……」
プレゼントが決まったので無理に思い出す必要はなくなったのですが、しかしたった一年前の記憶が思い出せないというのはやっぱり気になります。
あの後、恥を忍んでタコねえさまにも尋ねてはみたのですが、タコねえさまもわたしのプレゼントの中身までは覚えていませんでした。
「今年のプレゼントは忘れないように、しっかりと写真とか撮っておかなければいけませんね」
…………
そして、ずんねえさまのお誕生日当日。
わたしは自分の部屋のベッドで寝込んでいました。
わたしは自分の部屋のベッドで寝込んでいました。
「うう、不覚です……」
季節の変わり目だからでしょうか、それとも連日の夜更かしが原因でしょうか。きのうの夜、わたしは急に熱を出してダウンしてしまったのです。薬を飲んでひと晩休んだものの、今日の朝になっても熱は下がらず、結局今日は学校を休むことになりました。
もちろん、夜にやるはずだったずんねえさまのお誕生日パーティも中止です。
「はあ……ずんねえさまとタコねえさまには悪いことをしました」
もちろん、ふたりともわたしを責めるような真似はいっさいしませんでしたが、みんなが楽しみにしていたはずのパーティを、わたしのせいで中止にしてしまったのはやっぱり悔しいし、ふたりにも申し訳が立ちません。
その思いは、昼ごはんを食べるためにリビングに来た時にさらに強まりました。
冷蔵庫の中からずんねえさまが作りおきしてくれたおかゆとプリンを取り出そうとしたとき、白いケーキボックスが目に入ったのです。
冷蔵庫の中からずんねえさまが作りおきしてくれたおかゆとプリンを取り出そうとしたとき、白いケーキボックスが目に入ったのです。
それは、ずんねえさまのお誕生日パーティに出されるはずのバースディケーキでした。
「ううっ……」
それを見たわたしは、なんだか自分が情けなくなって泣いてしまいました。電子レンジで温めたおかゆとプリンを食べたわたしは、心の中でねえさまたちに何度も謝りながら早々にベッドに戻ったのでした。
…………
落ち込んだ気分は、夕方になってねえさまたちが家に帰ってきた時も晴れることはありませんでした。
タコねえさまが様子を見に部屋に来ましたが、どんよりと沈んだままのわたしの様子を見かねたのか、ベッドに腰を下ろしてわたしの頭を撫でてきます。
「まったく、きりちゃんが落ち込む必要はありませんでしょう?」
「ですが……」
「パーティは今日でなくともできますわよ。今はゆっくりとお休みなさいな」
「ケーキを持ってきましたから、後でゆっくりお食べなさい」と言い残すと、タコねえさまは部屋を出ていきました。
わたしは、ベッドに横になったまま机の上に置かれたケーキに目を向けます。
「ふふ、今年のバースディケーキはずんだミルフィーユですか」
「まったく、ずんねえさまはいつも無茶な注文をなさいます。そういえば去年も……」
「去年も?」
その時、わたしは自分の発した言葉にはじめて違和感を覚えました。
「去年のケーキはずんだクリームを使った特注のバースディケーキでしたよね」
先日、ずんねえさまと一緒に見た去年のお誕生日パーティの写真で、それは明らかです。
「あれ? でもわたしが撮ったというずんねえさまが大口を開けていた写真は……?」
「わたしが口のまわりを汚しながら食べていたのは……?」
「タコねえさまが不届きにもずんねえさまに食べさせようとしていたケーキは……?」
熱でぼんやりする頭で、必死に考えます。
と、その時。がたんという音が階下から聞こえてきました。
「な、なに……?」
その音は、リビングの方から聞こえてきたように思えました。
わたしは身体を起こし、ベッドから降りると寝間着姿のまま自分の部屋を出ます。
わたしは身体を起こし、ベッドから降りると寝間着姿のまま自分の部屋を出ます。
ふらふらする頭を抱えながら階段を降りるのは少し骨が折れました。何とか転ばずに階段を降り、足音を忍ばせてリビングに近づきます。
リビングからは、誰かがごそごそと動いているような気配が感じられました。
「もしかして、わたし抜きでお誕生日パーティをしているのかな……」
そんな疑念を抱きながら、わたしは、ほんの少しだけ開いていたリビングの扉から中を覗きこみました。
ああ。
いま思えばその疑念が的中していたほうがどれほど良かったでしょうか。
いま思えばその疑念が的中していたほうがどれほど良かったでしょうか。
わたしが見たのは、想像を絶する光景でした。
リビングの椅子に座っているのは、いえ、ロープのようなもので縛り付けられているのは、うつろな瞳のずんねえさま。頭には奇妙なアンテナやコード、ランプがつながっているヘルメットをかぶっています。
ずんねえさまは意識がはっきりしていないのか、ぶつぶつと何かをつぶやきながら、しかし椅子から立ち上がったり逃れようとするそぶりをみせません。
一方、椅子の横にはタコねえさまが立っていて、テーブルの上に置かれた奇妙な箱型の機械のスイッチを入れたり、ダイヤルをいじったりしています。
よく見てみると、その奇妙な箱型の機械からは何本ものコードが伸びていて、それらはすべてずんねえさまのかぶっているヘルメットにつながっています。
「なに……あれ……」
異様な状況に理解が追いつかないまま見続けていると、やがてずんねえさまがかぶっているヘルメットのランプがちかちかと点滅をはじめました。同時に、ずんねえさまの身体が二度、三度びくんびくんと痙攣します。
「そろそろOKですわね」
そんなずんねえさまの様子を無表情で見下ろしていたタコねえさまは、しばらくして箱型の機械のスイッチをパチンと切りました。途端にヘルメットのランプが消え、ずんねえさまは力なく頭をうなだれます。
その耳元に、タコねえさまが顔を近づけました。
「これから簡単な質問をいたしますので、正直に答えてくださいな」
「はい、イタコ姉さま……」
「ずんちゃんは今日、何歳になったのかしら?」
「十八歳です……」
「あら、本当かしら?」
「もう一度お聞きしますわね。ずんちゃんは、今日、何歳になったのかしら?」
「十八歳……」
「本当に?」
「じゅうはち……」
「もう一度」
「じゅう……なな……」
「よく聞こえませんわ。きちんと答えなさいな」
「十七歳……です」
「よろしい」
「……!!」
それを見た瞬間、わたしはすべての記憶を思い出しました。
「そうだ……」
「わたしは……去年も、おととしも、その前の年も……ずんねえさまの十七歳のお誕生日をお祝いしていたんだ……」
先日、ずんねえさまと一緒に見た「去年の」お誕生日パーティの写真。写真ごとに食べているケーキの種類が違っていたのも、これで説明がつきます。きっと、あれは去年以前の写真も混ざっていたに違いありません。
去年のパーティのできごとやプレゼントが思い出せなかったのは、おそらくあの奇妙なヘルメットと機械で記憶を消されていたのでしょう。
それにしても、驚きなのは謎の機械を操作していたのがタコねえさまだったということ。
「タコねえさま、どうしてこんなことを……?」
「さて、きりちゃんのほうもそろそろ薬が効いてきた頃合いかしら」
「!」
椅子に縛られているずんねえさまの足元には、食べかけのミルフィーユが落ちています。
「そうだ……次にあの機械で記憶を操作されるのは、わたしなんだ!」
恐怖にかられたわたしは、扉から一歩、二歩後ずさると、くるりと後ろを向いてその場を逃げ出しました。
階段を駆け上り、自分の部屋に飛び込むと、いままで一度もかけたことのなかった自室のドアの鍵をかちゃりとかけます。
…………
――……わたしは今、この手紙を自分の部屋で書いています。
わたしは、ずんねえさまのお誕生日にまつわる恐ろしい事実を知ってしまいました。おそらく、タコねえさまもそのことに気づいているのでしょう。さっきまで鍵のかかったドアをしきりにノックをしていたのですが、あきらめたのか今は何も聞こえません。
とはいえ、この部屋にいつまでも閉じこもっているわけにもいきません。水もないし、食べ物も部屋にあるのはずんねえさまに贈るはずだったプレゼントのもち米くらいで、もちろん炊飯器なんてありませんから食べることはできないのです。
ああ、今にして思えば、タコねえさまがプレゼントにもち米を薦めてきたのは、それが形の残らないプレゼントだからという理由に違いありません。タコねえさまにとって、形の残るプレゼントは自分がやっている悪行の証拠になりますからぜひとも避けたかったのでしょう。
スマホで助けを呼ぶ事も考えましたが、肝心のスマホが部屋から消えていました。おそらく、タコねえさまが薬の盛られたミルフィーユを持ってわたしの様子を見にきた時に、こっそり持ちだしたのだと思います。
それに、スマホで助けを呼んだところで「姉が妹の記憶を消そうとしている」という言い分を誰がまともに取り合ってくれるでしょうか?
いずれにしても、タコねえさまがこのまま引き下がるとは思えません。タコねえさまは何としてもわたしを捕らえ、あのおぞましい機械を使ってわたしの記憶を消してしまおうとするでしょう。ずんねえさまがリビングでやられたように。
この手紙は、もしそうなってしまったときの、未来のわたしへの警告として書いているのです。
ですが、こちらも素直にやられるつもりはありません。窓から雨どいをつたって脱出してもいいし、それにわたしには背中のきりたん砲があります。体調は万全ではありませんが、不意をつけばタコねえさまを足止めするくらいはできるかもしれません。
さて、当面必要な身の回りのものはまとめてバックにつめました。この手紙を机の下に隠して、そろそろけりをつけましょう。
…………
おや、窓の方から音が聞こえますね。ここは二階なのに……
…………
いや、そんなバカな!
銀色の狐耳が、尻尾が! 窓に! 窓に!
―終―