ファンタジー

ある冷めた夫婦

高校の時、所属していた「文芸倶楽部再興委員」の同人誌に掲載したもののリライトです。筋はそのまま、アイノベ用にしてみました。

タグ:短編

モブ2
なにか面白いもの、ありました?
モブ1
…いや、別に…
モブ2
あら、そうですか?でも、さっきからずっと新聞に穴が開くほど見ているじゃないですか。
モブ1
そうでもないだろ。
モブ2
……
モブ2
いいお天気だし、お出かけになったらどうですか?
モブ1
……
モブ2
……
モブ1
……
モブ1
おい
モブ1
おいったら。
モブ2
なんですの?
モブ1
昼飯はまだか?
モブ2
まだお昼前ですよ?
モブ1
別に時間通りに食べなくてもいいだろう。
モブ2
……
モブ2
なにか召し上がりたいもの、あります?
モブ1
別に何でもいいよ。
チーズトースト作ってくれ。
モブ2
今朝もチーストーストだったじゃありませんか。
モブ1
何だ?!
1日に2回食っちゃだめなのか?
モブ2
そうじゃありませんけどね。
歳も歳ですから、そろそろコレステロールのこととか気にしたほうがいいんじゃないかと思ったのよ。
モブ1
まだ定年退職してから1年も経っていないんだぞ?
長寿社会、まだまだ働ける歳じゃないか。
モブ2
……
モブ2
そうですね。
モブ2
……
モブ2
はい、お待たせしました。チーズトースト。
2枚目はもうすぐできますから。
モブ1
うむ。
モブ1
あちっ!
熱いなぁ、これ。
モブ2
あら、そんなに急いで召し上がらなくても。
モブ1
違うだろ?!
こんな熱いのを持ってくるのがいけないんじゃないのか?
モブ2
料理は熱々を供さないと、がモットーなんですけど。
モブ1
いつもはそんなに熱くないだろうが。
モブ2
それはあなたが新聞とかテレビに熱中していて、せっかく出したのに、なかなかお箸をつけないからですよ。
モブ1
オレのせいだって言うのか?
モブ2
そうは言っていませんけど……
モブ1
いや、今、明らかにオレのことを馬鹿にしながら言っただろ。
モブ2
だから、そんなことありませんってば。
モブ1
熱いのを食べたのもオレが悪いと。
モブ2
食べるものの温度くらい、自分で確認なさったらどうです?
わたしはそこまで管理できませんよ。
モブ1
いつオレがお前に管理を頼んだんだよ。
モブ2
ご自分のことは何一つできないじゃありませんか。
モブ1
自分の皿くらい、自分で洗えるぞ。
モブ2
あら、わたしのお皿は洗ってくださらないんですの?
モブ1
お前のなんか知らん。
モブ2
じゃあ、ご飯もご自分で作られたらどうでしょう?
そこまでおっしゃるんであれば。
モブ1
そこまでは言っていないだろうが。
オレは、こんな熱いのを持って来て、口の中を火傷したということで文句を言っているんだ。
モブ2
冷めたチーズトーストなんて美味しくないじゃありませんか。
モブ1
誰も冷たくなったのを持って来い、とは言っていない。
食べ頃のものを持って来ればいいだろうが。
モブ2
こっちだって忙しいんです。
できたらすぐに持って来るので、ご自分で頃合いをはかって召しあがればいいだけじゃないですか。
モブ1
お前は、ほんと、ああ言えばこう言うだなぁ。
いつからそうなったんだ?
モブ2
あなたって、たまに口を開くとそういうことばかりおっしゃるのね。
まだ退職してから半年も経っていないというのに。
モブ2
「まだ働ける」っておっしゃるけど、仕事する気なんて全然ないくせに。
モブ1
何だ、その言い方は。
40年近くずっと働いてきたんだ。
少しくらい休ませてくれたっていいだろうが。
モブ2
あら、わたしだって少しくらい休みたいわ。
モブ1
お前がいつ働いたって言うんだ?はん?
モブ2
そんなことおっしゃるんなら、家政婦でもお雇いになればいいんです。
モブ2
……くんくん
モブ1
……くんくん
モブ2
あっ!台所がっ!
ト書き
二人の議論が白熱する中、トースターも加熱しすぎた。
ト書き
呆然とする夫婦の目の前の、すっかり焼け落ちてしまった家のトースターの中からは、黒焦げた後、水浸しになり、すっかり冷え切ってしまったチーズトーストが見つかった。