オタクたるもの今年のバレンタインにはチョコではなくてお餅を渡そう!
というタイトルにしてみたもののホワイトデーの方がお餅を渡すのに相応しい気がしないでもありません……。白だし……。ちなみになぜこういう提案をするかというと『た○こマーケット』の影響ではなく、前日に作って冷蔵しておき、タイミングを見計らいながら渡すことのできるチョコレートと違って、お餅という食品のおいしさは鮮度が命、つまりお互いの家に立ち寄り「ちょっとお餅ついてくるから待っててね」って感じで気軽に振る舞える関係ということになるわけで、「そろそろ俺たち『チョコレートの関係』は卒業しようぜ……。これからは『お餅の関係』になろう!」というふうにお互いの距離をもっと縮めるとてもいいきっかけになるんじゃないかと思ったからです。まあそれはともかく、恋人がいようがいまいがイベントごとは楽しむのが一番ですね!
(――2月14日、下校中――)
部活を終え、家路を歩むずん子とめたんの影が長く伸びています。「相談がある」と言って呼び出されためたんが上げた声を聞くところによると、再び、ずんだアローの「残弾」が切れてしまったようでした。
めたんは小さく溜息をつきながら、自分の通学用のバッグ(サバイバル仕様)から取り出しかけた「真っ赤な包み紙の何か」をもう一度バッグの奥に突っ込みます。そんな彼女の不自然な動きを見て、ずん子は首を傾げますが――すぐに、前方から聞こえてきた黄色い声に意識を奪われました。
ずん子と目が合った鎧の女性が、人混みの人々に一礼をして、そこから抜け出してきます。歩くたびにカシャン、カシャンという金属音を鳴らす硬質の鎧は、役者向けのように軽量の素材で出来ている様子はなく――『戦闘用』のそれのように見えます。
女性は広い歩道の中央、、ずん子とめたんの行く手25メートル先に仁王立ちして、それだけで人を射抜けそうな険しい目で、二人のことを睨み付けました。そして彼女は、腰に装備した日本刀に手をかけると――しゃらん、と、一気に、引き抜きます。
理解できないようなら言葉を改めよう。私の妖刀――この『信長』と、貴殿の妖弓――『ずんだアロー』とで、力比べをしたい。勝負は三本。私の剣が貴殿の矢を弾けば私の勝利、貴殿の矢が私の剣を弾き、この鎧のいずこかに突き刺されば貴殿の勝利。勝者は――。
「ずんだアローは使えません」。そう言いかけたずん子の口を、めたんの小さな手が塞ぎます。彼女はずん子を庇うようにして鎧の女性――つるぎとずん子との間に立つと、自慢のドリル「ハイド」を高速で回転させて、つるぎを挑発します。
(ふふふ……。まさかわたくしが6年間妄想し続けてきた「学校を襲う強盗集団! 人質に取られるクラスメイト! 絶望的な大人たちの顔! 静かに立ち上がるこのわたくし! そしてわたくしは――修羅となった」――に似た展開が来るなんて!!)
ニヤニヤしながら周囲を見渡していためたんの視線が、つるぎの右隣の空間に固定されます。
構えを解いためたんが気になったのか、つるぎもまた、彼女の視線を追います。なんと、皆が蜘蛛の子を散らすように逃げたはずの彼女のすぐ隣の空間、背の高いつるぎが見下ろさないと気付かないところに――一人の小さな女の子が、もじもじと立っていました。
幼女「……おねえちゃん。ずん子おねえちゃんとめたんおねえちゃんは、わるい人じゃないよ?」
女の子を見つけた瞬間、ピリピリとしていたつるぎの雰囲気が一気に緩みます。彼女は刀を慎重に収め、女の子の目線の高さまで屈んで、彼女の頭を撫でながら、微笑みました。
幼女「……ほんとう?」
幼女「…………いい。じゃあ、これあげる」
つるぎの柔和な雰囲気にほだされたのか、女の子は満面の笑顔で、平べったい物体を彼女に押しつけ――というより、彼女の鎧の胸元に腕ごとそれを突っ込みました。「おわっ!」と驚いたつるぎでしたが、少女が突っ込んでくれたものの正体を知ると、大人しくなすがままにされます。
幼女「じゃあね! かっこいいおねえちゃん! ずんこおねえちゃんたちも!」(タタタッ
走り去っていく少女に礼を言って、つるぎは再び立ち上がり、剣を抜きます。再び、圧倒的な敵意がずん子たちを襲いますが――その「敵意」も前とは少しだけ、違って感じられました。
――めたんちゃん、やっぱり私がやるよ(*´ェ`)ノ なんか、その方がいい気がする。
「でも……」と抗弁しかけためたんの口を、今度はずん子が塞ぎます。その上でずん子の金色の瞳に見つめられ、「……ね?」とダメ押しをされたら、めたんにはもう、どうすることもできませんでした。
――ちゅっ、と。
めたんは肩をすくめてそう言うと、ドリルの先端を下にして地面に突き刺し、それを踏み台にして背伸びをします。そして、不敵な笑みを浮かべて、目を瞑るずん子の頬に手を添えると――久しぶりに、口づけをしました。――ずん子の頬に。
恐らく、めたんのこの力に関してはしのびの報告になかったのでしょう。何を勘違いしたのか、目の前でとんでもない光景を見せつけられたつるぎが顔を真っ赤にして、目を逸らします。案外、こういうことに関しては奥手なようです。
(せ……接吻!? 接吻だと!? 頬に対するものとはいえ、他人に唇を預けるなど、言語道断! そのような行為はまず想いを通じ合わせ、婚礼の儀を済ませて初めて――、ええい! さっきの女共といい、これだから市井の女性はダメなのだ!!)
ずん子とめたんは全く気付いていませんが、もし見ていたら色々と拍子抜けしてしまうほどの取り乱しっぷりです。もっとも、つるぎが彼女たちの行為のことをしっかりと見ていたら、そんな悠長なことは考えていられなかったでしょう。
――大将!! 来るで!! 集中せえや!!
我を失ってパニックに陥っていたつるぎが、どこからともなく飛んできた声によって体勢を立て直します。そうして面を上げた彼女が見たものは――今にも爆発しそうな緑色の妖気を纏った、美しきずん子の姿。
ずん子の全身から放たれた波動が、めたんのドリル「ハイド」の回転によって増幅されて、砂を巻き込みながら波紋状に広がっていきます。自分の方へと向かってくるその刃を見据えながら、つるぎは、愉快そうに口元を歪ませました。
これが……ふふっ、来い、「魔滅」!! 貴様の力、日の本は中部家が一家相伝、妖刀『信長』の一刀のもとに切り伏せてくれる…………ッ!?
ノーガードのぶつかり合い。力には力でねじ伏せようと刀をふりかざしたつるぎの表情が、何か――胸元の違和感――に気付いたことで、強ばります。
剣を横薙ぎに構えて、つるぎが大地を踏みしめます。そしてやって来た緑色の波動が、妖力に反応する特別仕様の鎧に細かなかまいたちを残しますが、つるぎは歯を食いしばって、胸元を護ることに集中していました。
――おい! 退くぞ!!
ずん子の波動を受けた少女の剣の光が、ふっ、と消えます。めたんが慌てて「ハイド」を回転させて風を起こし、砂煙を吹き飛ばしますが――その先は、もぬけの殻。
甲冑の少女――つるぎの姿は、忽然と消えてしまっていたのでした。
へたり込んだずん子は、緊張から解放されたことで油断した表情をしています。一方のめたんはといえば、逆に少しだけ頬を赤らめて、自分のバッグの中を漁っていました。
は、はい、これ。じ、実は今朝、普段は抑えつけているはずのわたくしの第二の人格、「四国めたん」が覚醒して……、それで、ようやく自我を取り戻したと思ったら、こんなものが手の中にあったのよ。べっ、別にあなたのために買ったんじゃないけど……あ、あげるわ。
とても自分用に買ったとは思えない豪華な包装を、ずん子の細い指が丁寧にほどいていきます。最後の銀紙をめくると、中から出てきたのは――。
ずん子が慌てて周囲を見ると、\うわ! このチョコずんだ味だ!付き合ってください!/とか\ずんだうめえ!!結婚してください!!/とかいう声がちらほらと聞こえてきます。どの程度の範囲に影響を及ぼしたかは分かりませんが、ずん子の予想は当たっているようです。
ど、どうしようめたんちゃん……。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。 またきりたんに「おしおき」されるし……このチョコも、せっかくめたんちゃんが買ってきてくれたのに……。
だ、だから、それはあなたのために買ってきたんじゃないからいいのよ! それに、今回は仕方ないんじゃない? たまたま近くを通りがかっただけで『抜刀――ライトニングスラッシュ――』されたんだものね。見ない顔だったけれど、物騒な人だったわ……。
(そういえば、あの人が護ろうとしてた胸元って……(*-∀-)ゞ)
自分が彼女に挑む決心をするまでの一連の出来事を思い出していたずん子は、一つだけ、鎧の少女が撤退した理由に心当たりがありました。そのことに思い至ったとたん、ずん子の表情が、晴れやかに緩みます。
お人好しはあなたの魅力だけれど、今度ばかりは注意した方がいいわ。刃物よ刃物。しかも負けた方は「身柄を拘束」とか言ってたのよ? 『通り魔――ジャック・ザ・リッパー――』じゃないんだから! なんなら警察にでも……ずん子?
照れ隠しのためにそっぽを向くめたんに柔和な笑顔を浮かべながら、ずん子は今襲われたばかりの少女のことについて、ぼんやりと考えをめぐらせます。
(――同日夜・「ふるさと女学院」屋上――)
パキン、と「チョコレート」を割る小気味のいい音が響きます。氷点下の気温の中、寒そうな様子をおくびにも出さずに凛と立ちながら、つるぎは、一瞬だけ躊躇ったあと、ハート型のチョコレートの半分を口へと運びました。
何を言っても聞き分けそうにないしのびを見て、つるぎは大きな舌打ちをし、刀にかけた手をゆっくりと戻します。そして、もう半分を口の中にねじ込んで強引に飲み込んだあと、眉をひそめて白い息を吐き出しました。
大口を開けて馬鹿笑いをしていたしのびの口の中に、目に見えない速度でチョコレートの銀紙が突っ込まれます。居合いの要領であっという間に元の姿勢に戻ったつるぎの口元は、微かに緩んでいました。
ふん。的外れな推論をしたにもかかわらず、舌の根を叩き斬られないだけありがたいと思え。奴らが破廉恥かどうかなぞ、瑣末なことだ。
……フッ。言っただろう? 東北ずん子の力、そしてその友人たちの力に最大限の敬意を払えば、一ヶ月を見積もっても少なすぎるくらいだ。それに、私は――三月の半ばまで、ここに留まっていなければならん。
しのびに背を向けて歩きだしながら、つるぎは、鎧の胸板から柔らかい布のようなものを取り出します。――そう。それは、少女にもらったチョコを包んでいた、手作りのリボン。
しのびには聞こえない声でそう呟いて、つるぎは、校舎の屋上から姿を消しました。
――その後、めたんを東北家に招いたずん子は、彼女やそらさん、うさぎたちのために自分の用意したチョコがきりたんによってどこかに隠蔽されているのを発見し、再び一騒動に巻き込まれますが――それはまた、別のお話。
――おわり―― (※今回もまとめのコメント欄にて感想をお待ちしています! また、まとめのコメント欄にずん子のイラストを投稿してくださる方も募集中です! コメント欄に投稿していただいたイラストに限り、公式から転載させていただく可能性がありますので予めご了承くださいね。)
次回はこちら http://inove.jp/ivsid1427























