日本では年間500本の映画が制作され、そしてほとんどが見られていない件について
日本アカデミー賞が発表されました。今年も素晴らしい作品が選ばれましたねえ。映画の製作本数の話となると、たとえばインドが圧倒的だとか、さすがハリウッド!だとかいう方向へとベクトルが向きがちですが、「映画の影響を受けて、視聴者が創作活動に手を出してみるケース」みたいなのは、もちろん日本も負けていません。ネット上でも同人イベントでも、アマチュアの創作活動の「目標」としてさまざまな機会が存在することが、世界有数の多様性を持つ日本のストーリー構成の裾野を支えてくれているわけですね。
――カン、カン、カン、カン!!
――風の強い日のことでした。天下泰平の江戸城に、風雲急を告げる銅鑼の音が響きます。くしくも、その夜は満月。あるいは――その美しい光に人々が見惚れるのを狙って、窃盗を試みたのかもしれません。
城下町に降り注ぐ金色の月光――その光をあえて避けるように駆ける、白い影がありました。
まるでネズミのようなすばしっこさで城下町を逃げる彼女の小脇には、高級な漆で塗り固められた一巻きの書簡が抱えられていました。開放すれば幕府を転覆させるという門外不出の書です。
真っ白な衣装は自信の表れか。平屋と平屋の間を舞うように駆けるその華奢な少女の正体は、にわかに江戸の城下町を賑わせている大盗賊、『純白の』めたん、その人でした。
――予め逃走ルートを確保してあったのでしょう。追いすがる町奉行たちをみるみるうちに引き離しためたんは、するすると縫うように城下町を進み、約束の神社にまで逃げ込んで、一息つきます。
――――そこまでや、『純白の』。
突如聞こえてきた声に、めたんは慌てて周囲を見回しました。まさか自分の足についてくることができる人間がいるとは考えてもいなかったのでしょう。普段は夜であってもフクロウのように敏感な彼女の瞳が、神社の瓦葺きのてっぺんに立つその「影」に気がついたのは、しばらく経ったあとでした。
――その「影」は、満月を背にしてすらりと背を伸ばし、首に巻いた長い襟巻きを、強風にたなびかせています。
逆光に凛々しいその姿を見ためたんの声が、明らかにうろたえています。そんな少女を見て、屋上の「影」は困ったように笑みを浮かべると、肩をすくめて溜息をつきます。
とても隠密集団とは思えない軽さで開き直ったしのびは、夜の帳の中にあってなお赤いその髪の毛をうっとおしそうに掻き上げると、右手の人差し指と親指を口の中に咥えて、ヒュウッ、と指笛を鳴らしました。
――しゃらん、と。めたんが腰の物を抜くよりも先に、鞘から刀を抜く音が、境内に響きました。
何かに気付いたように、めたんが神社の屋根を見上げます。そこに立つ関西弁の少女は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情の彼女に対して、まるで悪戯に成功した少年のように、やんちゃに白い歯を見せました。
――ガキィン!
その一撃をめたんが受けとめられたのは、まさに奇跡としか言いようがありませんでした。人智を超えた膂力で五メートル以上もの距離を一気に縮めたつるぎの妖刀は、峰打ちを狙ったのか――その背をめたんに向けているにも関わらず、「波ゐ怒」の刃を抉り取っています。
何が起こったのか理解ができないまま、めたんの華奢な身体が逆さざまに吹き飛びます。そのまま石灯籠に背中をしたたかに打ち付けた彼女は、自身の愛刀、「波ゐ怒」が粉々に砕け散っているのを目にし――その瞳に、畏怖の炎を燃やしました。
夜闇に溶けるかのような漆黒の妖刀を逆手に持ち、淡々と喋りながら、つるぎがゆっくりと接近してきます。そんなつるぎの姿に本能的な恐怖を覚えながら、めたんは、自身の懐から漆塗りの巻物を取り出しました。
――ヒュンッ。
巻物を掲げためたんのすぐ脇を、一本の矢が通り抜けます。驚くほどの速度、威力、そして精確性で射られたその一撃は、彼女の手から巻物だけを奪い去りつつ、巻物の本体には傷をつけないよう装飾部分を貫いて――巻物ごと神社の本殿に、深々と突き刺さったのでした。
三度、聞き覚えのある名を聞かされためたんが、顔を真っ青にして矢の飛んできた方を見上げ――百メートル以上離れた大樹の枝の上に、一対の金色の瞳がこちらを睨んでいるのを発見して、息を呑みました。
境内から見下ろせる城下町には、活発な声が響いています。夜も更けてきているというのに、この江戸の街は今日もてんやわんや。まさに「不夜城」の名が相応しい百万都市です。
――そう。時は西暦1709年、江戸時代――!!
(――山形・庄内映画村――)
汗を拭いながら清々しい表情をしているつるぎ、突っ込みつつも楽しんでいるしのびに比べて、突然駆り出された他の役者たちの表情はさまざまです。特に不満を持っているのは、イタコ姉さまときりたんのようでした。
ああ。その通りだ。「女の子だって戦いたい!」がテーマのプリキ○アが大ヒットしているのを参考にした。それに、中部家と関西家に保管されている当時の史料をもとに世界観を考証していて、子ども向けとは思えないほどに練り込まれている。あの少女も、きっと喜んでくれるだろう。
昼間から叩き起こされたきりたんと、かなり気合を入れてメイクや衣装選びをしてきたらしいイタコ姉さまが、ぶーぶーと不平を垂れます。二人に詰め寄られたつるぎは、呆れたように溜息をつきました。
(――回想――)
(――回想おわり――)
つるぎの言葉に合わせて、一同が一斉に一人の少女を見ます。
それに、この脚本は我ら「大都会」が全面監修しているからな。江戸時代三百年の泰平を支えた我々の先祖の記録そのものなのだ! 事実、我が家に伝わる史料には、「源氏」の血を引く「総帥」のもと、「神速」、「絶暴」、「妖弓」の能力者三幹部が「隠密部隊」として時代を駆け抜けたという記述がある!
もっとも、ずん子くんの能力が「妖弓」のそれと同じかは我々にも分からないがな。だが、君には資格がある。他人を思いやれる強い心と、個性派集団を率いるカリスマ性は、まさに「三幹部」の「役」にぴったりだ。それに、自らの力を他人のために使える優しさも持っているな。そう、そもそも能力者とは!
拳を振りかざしながら演説を始めたつるぎからさりげなく距離を取りながら、しのびが苦笑します。畳みかけるような彼女の言葉はほとほと聞き飽きている様子ですが、その表情には、嫌悪感の類はありません。
そらさんの質問を軽い調子で流したしのびの一言を聞いて、ずん子の脳裏にアイドルアニメに染まったつるぎの姿が思い浮かびました。
そんなずん子の視線はいざ知らず、演説を終えたつるぎはその鋭い目で一同の方を見ます。その表情は使命感と、自分の意見を伝えきったという達成感に満ちていました――――が。
彼女の話など我関せず、といった調子できゃいきゃいとずん子を弄る面々に、つるぎのこめかみに青筋が浮かびます。そして、彼女は我慢ならないといった様子で木刀を手に取り――、
――どさっ、と。今にもずん子たちに飛びかかりそうなつるぎの前に、厚さ二十センチにも渡りそうな分厚い大学ノートが放り投げられました。
ふふ、聞いて驚きなさい! その脚本こそ、歴史の闇に葬られたサイドストーリー・『純白のめたん伝』!! 傭兵でありながら情に厚く、義を重んじ、堕天しながらも人々のために命を燃やした伝説の大盗賊が、『漆黒』の存在となりて現代に『転生――タイム・トランスミッション――』して始まる大長編!
何かが切れる音がしました。
――その後、映像制作に目覚めためたんがイタコ姉さまたちの不満を汲んで、「大奥・イタコカワイイ伝」(イタコ提案)・「悪堕ちずんねえさま伝――禁断の姉妹愛――」(きりたん提案)の脚本を書き上げ、夏コミを目指して制作に入りますが――それはまた、別のお話。
――おわり―― (※今回もまとめのコメント欄にて感想をお待ちしています! また、まとめのコメント欄にずん子のイラストを投稿してくださる方も募集中です!)
次回はこちら http://inove.jp/ivsid1431






































